会場のビジュアルアーツ専門学校 3F ART HALLは、1人掛けの座席を横に10席並べた列が5列と立ち見で、キャパは150人程の広さだった。ステージは30cm程の高さで、ステージ上にはローランドのアンプ「JAZZコーラス」を2つ(デュアルに使用)並べ、
その前に、B.C.Rich製のレス・ポールダブルカットタイプのギターが1本。 さらにその前に、BOSS製のエフェクターがステージに向かって左から順に
GT-8(46種類のプリアンプを内蔵したマルチエフェクターで、エフェクターを踏まなくても弾く強さで歪んだ音やクリーン音に変化する。)
、GR-20(469種類の音色を奏でるギターシンセサイザー。)、RC-20(演奏と同時にレコーディングを自動で開始するループステーション。)、そしてもうひとつGT-8を用意し、
バックドロップには、「Arts Rock cafe' vol.2」。 左手のスクリーンには、エフェクター部がステージ上方から固定カメラで映し出されている。
会場の後ろ側には、 ローランドとBOSSのカタログと、それらの製品をロブが実演奏で紹介しているDVDがテイクフリーで準備されていた。
第1回目が始まる11:00になると程好く人が集まり、シート席は満席で、後方に立ち見の関係者や観客を含めると、会場内は70人辺り。その多くはビジュアルアーツの専門学校生で、彼らは今日のクリニックのレポートを書くと自動的に単位が認定されるシステムを同校の講師から説明を受けていた。
11:07辺りに会場が暗転し、BOSS株式会社八田さんからの紹介に続き、 これまた程好い拍手の中、客席後方からロブがB.C.Rich製の緑のギターを抱えておもむろに登場し、そのままゆっくりステージに向かう。 ステージに着くとロブは、エフェクターやアンプを簡単にチェックして、シールドをギターに挿して「日本で人前でギターを弾くのは今日が初めてだよ。昨日来日したばかりなんだ。」と手短なMCを挟んだ後、いきなりサンプル用のバッキング演奏を始め、超絶なギターソロを披露した。 ロブは身長185cm辺りの長身、黒衣に黒ズボンのスタイルはD2関連のサイトで見た時と同じで、 ギターの構え方は腹部にギターを置いた高いポジションで、速弾き系ギタリストの典型的なものだった。
演奏中のステージは比較的カラフルなライティングで、ステージに向かって左側にはスモークが効果的に焚かれていた。このインストは、イントロのドラムがJudas
Priestの"Painkiller"とほぼ同じで、ロブがギターを弾き始めるパートからはアンディ・ティモンズの2ndソロアルバム「ear
X-tasy」の"Groove or Die"に近いスピード感溢れるリズムで、速弾き・スウィープ・ライトハンド・アーミングを駆使しし、エフェクターで適度に音色を変えながら、ギターリスト必見のプレイを余裕で弾きまくったものだった。
「余裕で弾きまくる」と書いたが、演奏中のロブの表情にあまり変化は無く、ギターを弾きながら客席を見ることも無く、時折指板を見ながら上記のプレイをいとも簡単にプレイしている様子だった。分かりやすく言うと、教則ビデオの実演といったところだ。
演奏終了後、会場はロブが登場した時以上に大きな拍手があり、しばらく、ロブ自身からギターの解説を聞けたが、終始英語での説明の為(当然)、
途中からローランドの通訳の方がステージに上がり、彼からGT-8の機能をロブのプレイと交えて説明してくれた。ギター1本でツインギターやトリプルギターの演奏が可能なハーモナイザー機能・ギターを1音弾いた後、ペダルでスピードをコントロール出来るユニヴァイブ機能・同じくペダルで2オクターヴ上げることも可能な機能・大手ワウメーカーVOX、クライベイビー等の7種のワウの音色を再現出来たりする機能等で、
現在のエフェクター機能の多種多様さに多くの人が関心した様子だった。
実演中のロブと通訳の方とのやりとりは実に軽妙で、特に通訳の方の「ロブが特別に歯でギターを弾いてくれます。」というアナウンスに、客席からかなり期待したどよめきが聞こえてきたが、
ロブがエフェクターから少し離れ、ギターのボディ部を顔まで持ち上げるて実演すると、どう観ても歯で弾くにはあまりにも高速かつフラッシーなプレイだった為、客席から笑いや種明かしを望むコールが盛んになった。これはアルベジ8(エイト)という機能を使ったもので、それによって速弾きが実現出来ることを通訳の方と再実演し、この辺りから、それまで若干硬かったロブの表情も徐々に和らぎ、
時折、拳を高く上げて「イケテル?」と観客と対話をとるようになり、会場の雰囲気をさらに和やかにした。昨夜覚えたばかりの日本語もこの時披露され、ロブが予め用紙した紙(カンペ)を客席に背中を向けて確認した後、「アナタハキレイデス」、「オハヨウゴザイマス」、「アリガトウ」を続けて喋ったが、
発音の方は彼のギターテクニックに反比例していたことを伝えておこう。(笑)
次に、緑のギターから最初からステージに用意されたダブルカットのギターに替え、2曲目のインストがスタートした。そのギターには、演奏後に紹介するGR-20専用のピックアップが取り付けてあり、1曲目とは違うミディアムテンポのお洒落で落ち着いたフュージョンサウンドを披露した。その後、ギターでピアノ・オルガン・シタールの音を奏でたり、ストリングの音でコードを一度弾いた後、その音を出したままさらに音を重ねる機能をロブが実演し、今日の演奏曲はロブ自身が全て作成したことを通訳の方が教えてくれた。
続けて、RC-20の製品紹介が始まり、ロブがGR-20とギターを使って作成したドラムやベース、キーボード、さらにサックスサウンドを即興でレコーディングし、 RC-20のペダルでテンポをコントロール出来る機能や、RECスイッチを押さなくてもギターを弾くとレコーディングが自動でスタートする機能を実演し、 ロブは冗談で、「僕は、ピアノがあまり弾けないからギターで表現するんだ。それにBandでドラムやベースをクビにして、僕1人でも出来るよ。いつもドラマーがリハーサルに遅刻するんだから。」と、恐らくD2のS.W.くんの事を言っていた。
そして、紹介したエフェクターを全て使って、ロブが第1部のラスト曲となる3曲目を披露した。 最初に、Europeの"Final Countdown"のキーボードのイントロとこの曲のソロパートをギターで弾き、通訳の方が「この曲を知っている方は、歳がばれますね。」と苦笑いをして、彼が改めて「ミスター・ロバート・マルセロ!」と紹介した後、サンプルデモをバッキングにまたしても超絶なギターソロがプレイされた。 3曲目も、速弾き・スウィープ・ライトハンド・アーミングを駆使したソロだったが、この曲のアーミングの使い方がブラッド・ギルス(Night Ranger)に迫るものがあり、曲調は静と動がはっきり分かれており、1曲目と2曲目を総括したインストだった。この時、ロブがピッキングハーモニクス(ピックの最短に持ち、ピッキング時に親指とピックを同時弦に向かって弾く奏法。D2在籍時のアンディ・ティモンズやザック・ワイルドがよく演る「キョ〜」という音。)を殆ど演らないことに気付いたが、ロブの奏法の特徴なのかは今日は判別出来なかった。
演奏が終ると盛大な拍手が起こり、質問コーナーに移った。通訳の方が、「そのさらさらヘアはどんなシャンプーを使っているのか?など、質問の内容は何でも良いです。」と導いてくれたが、専門学校生はオーソドックスな質問をロブに投げかけた。ロブは生徒達の質問にリラックスして応え、「好きな色は緑で、今日のギターもそれに合わせている。」、「9歳からギターを弾き、BOSS製のDS-1(ディストーション機能内蔵のエフェクター)を最初に使い、KISSとCheap
Trickをカヴァーした。」、「ギターは11本持っている。」、「毎日がトレーニングで、DB-31というメトロノームは必ず使う。」等の答があった。「何故BOSS製のエフェクターを使っているのか?」という本日のクリニックで最も意味のある質問に、
ロブは、「僕は製品の開発にも携わっていて、どこの国にもBOSSはあるし、壊れたという苦情も無いね。ペダルも何回踏んでも壊れないし、車で踏んでも塗装が剥がれる程度で壊れないんだよ。」と製品の良さをアピールした。ギターの挫折の経験に関しては、
「毎日が壁だよ。得意なフレーズばかり演るのでは無く、苦手なフレーズに挑戦して、その時はバッキングトラックに合わせてレッスンすると上達するよ。それに練習を楽しむ。ループステーション(メトロノーム機能を搭載)を使うといろいろ遊べて楽しいし、飽きない。」が最後の回答になり、開始から約1時間10分の12:18にクリニックは終了した。
その後、専門学校生のカメラメンによるロブと観客を交えた記念写真を3枚撮影し、個々でサインや握手会が行われた。本日のギタープレイにD2フレーズが皆無だったことや、D2の一員としてよりひとりのギタリスト「ロバート・マルセロ」の趣旨が強く出た為、第1部ではD2関連の話題に全く触れることはなかったが、20歳前後の生徒達にとって世代的に問題ではないだろう。
14:30からスタートした第2部も第1部と同じ構成だったが、第1部では通訳の方の解説時に、ロブはサンプルバッキングを流しながらエフェクターの効果を実演していたが、第2部では通訳の方が解説してくれる時はサンプルバッキングを無しにしたので、音の変化が分かりやすかった。 ロブは1部では披露しなかったバンジョーサウンドを、「僕はスウェーデン人で、初のスウェーデン・カウボーイだよ。」と言って、ご機嫌にカントリーロックのフレーズで弾いたり、スティーヴィー・ワンダーの"Superstition"をクラビネットの音で表現したりした。インスト演奏も、3曲とも第1部よりノリノリなのは明らかで、 曲調やチョーキングに合わせて体を仰け反るシーンが多くなった。 さらに彼は、新たに「ビジュアル(会場の専門学校の名前)ハ、イケテル」と「ナンデヤネン」という日本語をステージ上で覚えたのだった。 「日本でLoudnessというBANDを知っているよ。」と両手を合わせておじぎもした。そして、第2部では、通訳の方から、D2が来年2月に東京でライヴを演るかもしれないことがアナウンスされた。
アンディ・ティモンズがD2を去った後、ようやく決定したギタリストの単独来日のプレイは、充分な技術を持っていることが本日のクリニックでよく分かった。ソロとしてのプレイも素晴らしかったが、11月1日(火)にリリースされたロブが参加しているD2初のライヴアルバム「Live
and Nude」と来日公演で、彼がBandの一員としてどんなギタープレイを聞かせてくれるのかは、今後のお楽しみにしよう。
|